目次
SWOT分析とは
SWOT(スウォット)分析とは、自社の内部環境と外部環境を分析するのに適した、マーケティング戦略における代表的な分析フレームワークの一つです。
SWOT分析では、後述する内部環境(内部要因)と外部環境(外部要因)を根幹に、自社の現状を分析し、新たな戦略策定やビジネス機会の発見を狙います。
SWOTとは「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の頭文字であり、それぞれの項目を抜け漏れなく洗い出す必要があります。
もっと他の分析方法も知りたい方はこちらへ
内部要因
マーケティングにおける内部要因とは、自社の保有資産や実績、得意分野などの自社に関する情報であり、自社で一定のコントロールが可能なものを指します。
強み(Strength)
SWOTにおける「強み(Strength)」とは、自社の技術力やブランド力、提供する製品やサービスの品質など、他社との競争力を比較した場合に優れている点を指します。
ビジネスにおける目標達成にプラスとなりうる社内リソースであり、強みを調べることで自社のビジネスで何が有効に進んでいるかを把握できます。
弱み(Weakness)
SWOTにおける「弱み(Weakness)」とは、自社が抱える課題や、期待を下回っている点など、ビジネスにおける目標達成の障壁となりうるものを指します。自社の弱みを把握することで、目標達成のための改善点を整理できます。
外部要因
外部要因とは経済状況や競合他社、政治や時代背景など、自社を取り巻く外部の状況のことです。内部要因とは異なり、自社でのコントロールが不可能なものを指します。
機会(Opportunity)
SWOTにおける「機会(Opportunity)」は市場機会とも呼び、自社の目標達成の追い風となってくれる外部の状況を指します。たとえば、次のような要素が該当します。
- 市場規模の拡大
- 景気回復
- 政治体制や法律などの変化
自社ではコントロールできないビジネスが好転する要素は、どんなに小さな変化であってもすべて市場機会に該当します。
脅威(Threat)
SWOTにおける「脅威(Threat)」は、自社の目標達成の障壁となりうる外部の状況を指します。たとえば、次のような要素が該当します。
- 市場規模の縮小
- 景気後退
- 競争の激化
自社ではコントロールできないビジネス上の脅威となりうる要素は、すべてこの項目に該当します。
最重要ポイントは強み×機会
SWOT分析で分析した4つの視点の情報をそれぞれ組み合わせることで、マーケティング戦略の方向性をさらに見極めることができます。これを「クロスSWOT分析」といいます。
クロスSWOT分析では、外部要因と内部要因を組み合わせた4つの要素を作ります。
強み×機会 | 強みと機会を活かして自社に何ができるか |
強み×脅威 | 強みを活かして、どのように脅威を排除するか |
弱み×機会 | 弱みをどのように改善して、ビジネスの機会創出を狙うか |
弱み×脅威 | 弱みを理解して、訪れる脅威にどのように対処するか |
クロスSWOT分析の具体例は後述しますが、この中で一番重要視すべきポイントは「強み×機会」です。他の3つの要素は、弱みや脅威への対策を行い、機会損失や市場への悪影響を最小限にする分析です。
一方「強み×機会」は、ポジティブな部分のみに着目した分析といえます。市場を生き残るためには自社の継続的な成長が必要不可欠であるため、「強み×機会」のクロスSWOT分析は最重要ポイントとなります。
【必読】クロスSWOT分析のやり方を具体例つきで解説
クロスSWOT分析のやり方を、具体例を交えて解説します。ここでは、牛丼チェーン店を例にとって分析を進めていきます。
クロスSWOT分析を始める前に、まずはSWOT分析でそれぞれの要素を紐解いてみましょう。たとえば牛丼チェーン店の場合は、以下のようなSWOT分析結果が得られます。
強み | 低価格で素早く商品を提供できる回転率が高く、混雑する時間帯でも多くの利用客を捌ける |
機会 | コロナ禍により、テイクアウトやデリバリー需要が増えている大通り沿いの立地で目立っている |
弱み | 個人客が多く、ファミリー向けではない店舗の一部老朽化 |
脅威 | 材料価格の高騰コンビニなどで同価格の牛丼が販売されている |
これらの中から、クロスSWOT分析の4つの組み合わせをそれぞれ考えてみましょう。
強み×機会
牛丼チェーン店の強みである低価格かつ商品の素早い提供は、UberEatsを始めとする、コロナ禍により普及したフードデリバリーサービスの需要が増えている機会と非常に相性がよいです。
デリバリーサービスの中でも低価格で注文でき、かつ商品の提供時間がほかの飲食店と比べても早い牛丼チェーン店は、顧客のニーズにしっかりと応えられています。
強み×脅威
牛丼チェーン店の低価格は強みですが、その一方で材料価格の高騰に伴う利益減少の脅威も考えられます。
しかし、牛丼チェーン店は回転率が高く、商品の提供数が多くなることも強みです。平日のお昼は、安くてお手軽な牛丼を求めてサラリーマンが大勢やってきます。
店内の席数を増やすなどで回転率をより上げる仕組みを作れれば、利益性はさらに向上し、脅威のリスクを低減することができます。
弱み×機会
牛丼チェーンは回転率が高いものの、個人客が多くファミリー向けではありません。店舗の一部老朽化も、ファミリー客には受け入れがたい要素となるかもしれません。
この弱みを克服するために、こども向けメニューやファミリー特典を設けたり、店舗を改装して誰でも入りやすいような環境にしたりといった工夫をすることで、成長の機会を狙えます。
弱み×脅威
個人客の多さという弱みに、コンビニなどにおける代替品の脅威が組み合わさると、牛丼チェーン店にとっては大きな打撃となる恐れがあります。
そのため、店舗でしか提供できないような牛丼メニューや、できたてを食べられる鉄板焼きの定食メニューなど、コンビニには提供できないような独自性を確立することで、脅威の影響を最小限に留められます。
クロスSWOT分析でわかること
クロスSWOT分析を行うと、SWOT分析だけでは見えてこない戦略性が見えてきます。しかし、新しい戦略を列挙したところで、どの戦略から実践していくべきか、優先順位に困ってしまう場合があります。
そのため、自社のリソースや経営状況などを踏まえた上で、どの戦略を優先的に順位づけして実行していくべきか、費用対効果を考えた判断が必要です。
SWOT分析の目的を知り最大限に活用しよう
SWOT分析の目的は前述した4つの要素を分析し、内部環境と外部環境を把握することです。
さらに、それらの情報を組み合わせることで、自社の武器となりうるビジネス手法や克服すべき課題を見つけ出し、実現性の高いマーケティング戦略を立案しなければなりません。
SWOT分析を活用すると、リスクを回避しつつもチャンスを伺う、攻めの戦略をとることができます。
経営戦略への効果的な活用方法
SWOT分析を効果的に活用するには、何のために行うのか、分析の目的を明確にすることが重要です。目的がないまま分析を進めていくと、分析結果もズレたものとなりかねません。
そのため、SWOT分析を行う前に、まず自社を取り巻く状況に対して仮説を立てましょう。その上で実際にSWOT分析を行い、仮説と現実のズレを把握することで、より効果的な分析が可能です。
また、社内の一握りの人物だけではなく、さまざまな部門や役職など多様な視点を持ったメンバーで協議し合って分析を行うのも効果的です。
3C分析やPEST分析と比較してSWOT分析はどんな違いがあるのか
SWOT分析以外にも「3C分析」や「PEST分析」といった分析フレームワークがありますが、これらはそれぞれ異なるフレームワークです。
たとえば、3C分析は次の3つの観点から、自社の強みと弱みを明確化するのが狙いです。
- Customer(顧客)
- Company(自社)
- Competitor(競争相手)
一方、PEST分析は自社を取り巻く4つの外部環境を分析するために用います。
- Politics(政治)
- Economy(経済)
- Society(社会)
- Technology(技術)
新たな戦略策定やビジネス機会の発見を狙うためのSWOT分析とは、それぞれ分析内容や粒度に違いがあります。
SWOT分析にはどんなメリットやデメリットがあるの?
SWOT分析はメリットが多い反面、デメリットも存在します。
SWOT分析のメリットは、強みや機会などの自社にとってポジティブな要素だけではなく、弱みや脅威などのネガティブな要素にも向き合える点です。自社が抱える課題や、それに対する改善点が見えてきます。
一方のデメリットは、SWOT分析で区分けされているそれぞれの要素は、異なる角度から見ると解釈が変わってしまう点です。
たとえば利益面で考えれば強みとなる要素でも、顧客ニーズの観点から考えると弱みになる場合があり、SWOT分析をうまく活用できなくなってしまいます。
SWOT分析は時代遅れ?ほかの分析フレームワークと併用しよう
SWOT分析は、分析しただけで終わってしまい、具体的なアクションへ繋げられないケースがあります。
SWOT分析の起源が1960年代〜1970年代とされていることも相まって、時代遅れだと考える人も少なくありません。
しかし、4つの要素を組み合わせたクロスSWOT分析を行うことで、具体的なアクションプランが見えてきます。また、3C分析やPEST分析といったほかの分析フレームワークと併用することで、SWOT分析で洗い出せる情報の精度はさらに高められます。
SWOT分析をする際の注意点【失敗しないための例つき】
SWOT分析を行う上での注意点をいくつかご紹介します。
目標の明確化
まずは、SWOT分析を行う目的を明確化しましょう。目的を明確にすることで、分析したデータが活かせず無駄となってしまう事態が防げます。
- 自社に将来起こりうるリスクを事前に把握して、あらかじめ対策を練っておきたい
- 自社の強みと弱みを洗い出して、新しいビジネスを考えたい
上記のような目的を決めると、入手した情報を企業の成長や目標達成に効率よく活用できます。
複数人での分析
SWOT分析は、なるべく複数の角度から情報を集めることが重要です。デメリットでも挙げた通り、強みだと思った要素も見方によっては弱みとなるケースがあります。
こうした判断は個人ではつけづらいため、複数人で分析を行い、慎重に判断を下す必要があります。特に内部環境の強みや弱みは、事業に関わる部署や社内全体規模で意見を集め、可能な限りすべてを網羅できるようにしましょう。
ほかのフレームワークを用いた深い分析
SWOT分析は、内部環境および外部環境の現状分析に適しています。しかし、それぞれの細分化には向いていません。
3C分析やPEST分析といった関連するフレームワークと連携させながら、足りない部分を補完していくイメージで活用するのが望ましいでしょう。
SWOT分析をトヨタを具体例にして解説
SWOT分析を、実際の企業を例にご紹介します。世界有数の自動車メーカーである「トヨタ自動車」を例に、第三者視点でSWOT分析を見ていきましょう。
トヨタの強み
トヨタの強みは、何といっても世界的に強い販売力です。工場や設備に惜しみなく投資する、研究開発への意欲が結果として表れています。
トヨタの弱み
トヨタの自動車販売は海外比率が高く、為替変動の影響で利益の安定化を図りにくい点が弱みです。また、生産から販売までの連携の悪さが、いわゆる大企業病として目立ち始めている点も課題といえます。
トヨタにおける機会
東南アジアを始めとする資源国・新興国からの需要が増えており、今後さらなる市場拡大の機会が訪れる可能性が高いです。
また、ガソリン価格の高騰により低燃費自動車への関心が高まっている点も、市場拡大の機会となります。
トヨタを脅かす脅威
トヨタの脅威には、ニーズの多様化に伴う車への関心離れや、小型車市場・低価格車市場の競争激化などが挙げられます。
分析結果を経営戦略に活用した場合の例
これらの分析結果を踏まえると、以下のような経営戦略を策定できます。
- 低燃費自動車への関心の高まりが集まっているため、電気自動車など次世代技術の研究に力を入れることでさらなる利益が期待できる
- 市場の競争激化に備えて、トヨタは企業間の投資や共同開発を推進して、自社の競争力をより高める必要が出てくる
3つの業種をSWOT分析のフレームワークで分析する
SWOT分析のフレームワークは、さまざまな業種で活用できます。それぞれの企業でSWOT分析を用いる場合の4要素に当てはまる要因例を、簡単にご紹介します。
例1:IT企業
強み(Strength)
- エンジニアを豊富に確保している
- 他社に比べて、高品質で短期間の納品が可能
弱み(Weakness)
- 開発エンジニアの不足
- 新規顧客に対しての受注体制が整っていない
機会(Opportunity)
- アフターコロナによるIT需要が高まっている
- 企業のDX化が進んでおり、システム開発の需要が高まっている
脅威(Threat)
- 競合が多く、類似した製品やサービスを提供する企業が増えている
- 新しい技術の登場が早く、対応に追われている
例2:製造業
強み(Strength)
- 他社に比べて、高品質で短期間の納品が可能
- 製品のオーダーメイドが可能で、顧客ごとの要望に合わせた商品提供ができる
弱み(Weakness)
- 製造時間が他社より長く、コストがかかる
- 販路が限定的であり、収益性が高くない
機会(Opportunity)
- 製品の素材に注目が集まる
- オンライン市場の拡大
脅威(Threat)
- 安価な代替品や海外製品の出現
例3:飲食店
強み(Strength)
- 顧客のリピート率が高い
- 従業員の接客がよい
- 季節ごとのオリジナルメニュー開発など、顧客を飽きさせない工夫をしている
弱み(Weakness)
- 店舗が一部老朽化している
- 決済方法が現金のみ
機会(Opportunity)
- デリバリーやテイクアウト需要が増えている
- 近隣に大型分譲地があり、人口が増加する
脅威(Threat)
- 家族での外食の機会が減っている
- 原材料費が高騰している
まとめ
SWOT分析は、自社の内部環境と外部環境を分析できる、マーケティング戦略の策定には必要不可欠な手法です。
現状を把握するために、あらかじめ目的を明確にした上で、複数人規模でSWOT分析に取り掛かってみましょう。SWOT分析後はクロスSWOT分析を行い、さらなる細かい戦略を検討するのがおすすめです。