クライアントの漠然としたデザイン要望をどう捉えるか
今回お話を伺ったのは、株式会社イッパイアッテナの代表を務めており、自身もWebディレクターとして活躍している春木さん。
愛するものは知識と教養と文学、座右の銘は学生時代から変わらず「花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ」というお方です。
漠然とした要望が発生する2つの可能性
―――てことで、漠然と「なんか違うんだよね〜」って言われちゃったときの対処法を教えてほしいんです。
クライアントの漠然とした要望に対してどう返すか、ですか…。これって、問題が起こってそれを解決するという構図に見えるけれど、実は違うんですよね。
―――え、どういうことですか?!
こういった事態に直面した際に、考えなければならない可能性が2つあって。
漠然とした要望をいただいた時に想定できる2つの可能性
- Webディレクターがヒアリングをしくじっている
- クライアントの要望自体が、そもそもの問題解決に適していない
これらは、いずれもクライアントとの合意形成に失敗している。だから、作られたデザインがどうこうという話じゃないんですよ。
―――なるほどわからん!1つずつ教えてください!
Webディレクターがヒアリングをしくじっている場合
まず、Webディレクターがヒアリングを適切にできていない場合。これは、デザインコンセプトに立ち戻る必要がありますね。
Web制作って、デザイン段階に入る前に「今回のWebサイト制作はこんな人に向けてこんなことを伝えて、その結果、こういう成果を生み出せるものにしたいよね」という話を、ディレクターとクライアントの間でするんです。
その上で、その目的を達成できるデザインのコンセプトを定めているはずなんですよ。でも、そのコンセプト作成の段階で間違ってしまっているということです。
―――えーと、具体的にどういうことですか?
たとえば、とある会社さんの採用LPをリニューアルすることになったとしましょう。で、ヒアリングの結果、このクライアントは「若くて元気な人材」を求めていることがわかりましたと。
そうしたら当然、デザインコンセプトは「若くて元気な人材の心をつかむもの」でなくてはならないですよね。かなりざっくりな話ですけど。
で、それで「若くて元気な人材に響く、明るく賑やかなデザイン」を作ったら、それを見たクライアントが「もう少し落ち着いた感じにしたいんだよな〜」と言いました。
―――えっ、どうして。
蓋を開けてみたら、クライアントが言っていた「若くて元気な人材」のイメージは、実は「明るく賑やかな人」ではなく「実直かつ体力的に元気な人」であったと。
―――なるほど…「若くて元気」というイメージのすり合わせが十分にできていないかったわけですね…。
そうなんです。この場合は、もう一度ヒアリングを行ってデザインコンセプトを正しく練り直す必要があります。
クライアントの要望自体が、そもそもの問題解決に適していない場合
―――じゃあもう1つの、クライアントの要望自体が問題解決に適していない、というのはどういうことですか?
例え話ですが、とある親御さんが、お子さんが通われている学校の先生に対して「もっとこんな授業を取り入れて教育レベルの底上げをしてほしい」という要望を伝えたとします。
でも、学校は学校側で、さまざまな事情があるわけです。優先しなければならないカリキュラムがあるとか、ついていけない学生が出てきてしまうだとか、親御さんの要望を受け入れてしまうと、本来の学校教育の目的が果たせなくなってしまうような何かが。
親御さんはかつて学生だった経験があるので、学生目線でいろいろと言いたくなってしまうのですが、先生の経験があるわけではないので教える側の事情には明るくないんですよね。
―――ふむふむ。
デザインも同様です。デザインって世の中に溢れかえっていますよね。そんなさまざまなデザインを受け手として普段から目にしているクライアントが意見を伝えたくなるのは当然のことだと思います。
しかし、クライアントは事業のプロであって、デザインのプロではない。なのでクライアントの要望を叶えたデザインが「Webサイトを作ることによって解決したかった問題を、本当に解決できるデザインなのか」は別問題なんですよね。
―――なるほど…。いただいた要望を叶えたデザインが、そもそも本来の目的を果たせるデザインであるかどうか、ディレクター側でしっかり考えなければならないわけですね。
漠然とした要望に対してどのように質問を返せばよいか
―――クライアントさんから漠然とした要望をいただいたとき、2つの可能性が考えられることはわかりました!…ついでに、要望に対して実際にどう返したらいいのかも教えてください。
これは「なぜそう思ったのか」をひたすら聞くしかないです。
なんでもっと色を増やしたいんですか?
なんか元気がないと思ったからです。
たしかにそうですね。
でも、どうして元気がないとダメなんですかね?
落ち着いた感じとかおしゃれな感じではなく。
まあ、なんか暗く見えちゃいますからねぇ。
それはよくないですね。
暗く見えるとダメということは、
実際にはどういうイメージを与えたいんですか?
活気があって賑やかな雰囲気…ですかね?
いいですね!
じゃあ、単純に色を増やすのではなくて、
写真を多くして活気を出すのはどうですか?
ああ、それもありですね!
…などというように、とにかく疑問を投げて、どんどん具体的な解決方法を提案して、より良いデザインへと導いていく必要があります。
―――一つひとつの認識をすり合わせていくよりほかないんですね。
ちなみに初歩的なことですが、このとき、クライアントの意見を一度は必ず受け止めてくださいね。「でも」「だって」から始まるようでは、そもそもコミュニケーションに難がありますよ(笑)
―――うっ、き、気をつけます…。
まとめ:人はそれぞれ見えているものが違うことを忘れない
明るい、落ち着いている、賑やか、暗い…世の中にはさまざまな表現がありますが、その表現が相手にとってどのようなイメージなのか、一人で思い込まずにしっかりと確認する必要性がわかりました。
その上で、クライアントの現状や課題を把握して、解決できるデザインを提案していくのがWebディレクターのお仕事のようです!
- Webディレクターがヒアリングをしくじっている
- クライアントの要望自体が、そもそもの問題解決に適していない
デザインについての漠然とした要望に対して、どう考え、掘り下げていけばよいのか、ヒントになりましたでしょうか?
今回の記事はここまで!クライアントの漠然とした要望に怯まず、起こっている問題を整理して、一つひとつ解決に導いていきましょう!