WBSとは?
WBS(Work Breakdown Structure)とは、作業を細分化して組み立てる手法です。プロジェクト管理の土台となり、スケジュール作成のベースにもなります。
たとえば、カレーを作るとしましょう。カレーを作るには「材料の買い出し」「下ごしらえ」「調理」と、大きく分けて3つのタスクに細分化できます。材料の買い出しでは「家にあるものを確認する」「足りないものを購入する」と小さなタスクがあります。
このようにWBSは大きなタスクから段階的に細分化することにより、計画を遂行するうえで大切なタスクの抜けや漏れを予防するフレームワークです。
WBSの目的
WBSの目的は、プロジェクト達成に欠かせないタスクを洗い出し、抜けや漏れをなくすことです。
プロジェクト遂行にあたり、必須作業の洗い出しをしなければ、トラブルが発生するおそれが高まります。最悪の場合、納期が大幅に遅れる事態になりかねません。
トラブルを未然に防ぐためにも、WBSでタスクを明確にすることが大切です。また、WBSで洗い出したタスクをもとに計画を立てることで、プロジェクトの全容を把握することにもつながります。
タスク管理との違い
タスク管理は、プロジェクト進行に欠かせない作業管理を指します。プロセスの順番を考えると、プロジェクト全体を細分化するのがWBSとなり、タスク管理はWBSによって細分化されたそれぞれの作業だといえます。
ガントチャートとの違い
WBSと比較して、ガントチャートは視覚的に分かりやすい点が特徴です。ガントチャートは、プロジェクトの進行状況を管理する手法の一つです。
一般的なガントチャートは、縦軸にタスクと担当者、横軸に日時を棒グラフ形式で示します。タスクの可視化や情報共有も可能です。
ガントチャートは時間軸を設定して可視化することに重きを置いているのに対し、WBSはタスクの抽出と細分化が主目的です。
つまりガントチャートは、WBSで抽出されたタスクをアウトプットする際に用いられる手法といえるでしょう。
WBSを作成する4つのメリット
WBSを作成するメリットには、以下の4つが挙げられます。
- 優先すべき業務が明らかになる
- 生産性の向上が期待できる
- ミスやタスク漏れを防止できる
- スケジュールを事前に予測できる
WBSは作業を細かく把握しやすく、メンバー全員に共有することで作業の抜け漏れや遅れを予防可能です。
1.優先すべき業務が明らかになる
プロジェクトの達成に欠かせない業務を洗い出すことにより、優先すべきタスクや担当者などを明らかにできます。
メンバーの担当業務や優先する業務が明らかになると、悩む時間が減り、効率よく作業することにもつながるでしょう。
2.生産性の向上が期待できる
作業を可視化することで、メンバー全員と進捗状況を確認しやすくなり、ミスやタスク漏れが防止できます。その結果、生産性の向上が期待できます。
WBSを活用できれば、スムーズにプロジェクトが進行できる環境が整い、人的リソースの有効活用につながるでしょう。特に人数が限られているプロジェクトほど、WBSを活用すると生産性を高められます。
3.ミスやタスク漏れを防止できる
WBSは、プロジェクトが完遂するまでに必要なタスクをすべて洗い出します。そのため、ミスやタスク漏れを防止できるのがメリットです。
必要な作業を抽出し、可視化できていなければ、もしタスク漏れが発生しても気づきにくいものです。
そのままプロジェクトを進行して、終盤に差し掛かって重大なタスクが漏れていたことに気がつく可能性もあるでしょう。
WBSでタスクを可視化しておけば、ミスが発生しにくい環境下でプロジェクトを進行可能です。
4.スケジュールを事前に予測できる
タスクの洗い出し・分解が適切に行えていれば、スケジュールを事前に予測しやすくなります。これはWBSを作成することで、小さなタスクごとに完了日時を設定するためです。
また、事前に全タスクにかかる時間を計算できるため、クライアントに対して正確な納期を伝えられるでしょう。スケジュール管理を行う際にはWBSとガントチャートを併用すると、各タスクの期限の可視化も可能です。
WBSを作成する3つのデメリット
WBSを作成するデメリットには、以下の3つが挙げられます。
- 編集や確認が必要になる
- アジャイル型の開発体制と相性が悪い
- 作成者の経験や価値観の影響を受ける
タスクを洗い出し細分化する特性上、管理頻度が多くなりやすく、不向きなプロジェクトもあります。ここではWBSを作成するデメリットをそれぞれに分けて解説します。
1.編集や確認が必要になる
WBSを使用する場合、計画が変更されるごとに編集が必要です。作業の度にWBSの中から自分のタスクと期限を確認するのは非常に面倒なことです。
WBSの編集や管理に時間を取られ、肝心のタスクがおろそかになるのは本末転倒だといえるでしょう。このような事態を回避するには、編集・確認しやすい形でWBSを管理する必要があります。
2.アジャイル型の開発体制と相性が悪い
WBSはプロジェクト全体で必要なタスクを細分化して組み立てます。そのため、細かい開発サイクルを繰り返す「アジャイル型」の開発体制とは相性が悪いといえます。
現代のソフトウェア開発の現場では、アジャイル開発が主流で、プロジェクト開始時点からゴールを確定しスケジュール変更なく進行することは稀です。
複雑なプロジェクトを正確にスケジュール化したり、スキルが均一でないメンバーにタスクを割り振ったりする場合は、別の管理方法が向いています。
3.作成者の経験や価値観の影響を受ける
WBSには、作成者の経験や価値観の影響が反映されやすい傾向にあります。よってこれまでのプロジェクト経験や思い込みなどから工数を算定してしまいがちです。
WBSで設定したタスクの細分化度合いや、必要な時間を見誤らないためにも、複数のメンバーで確認しながら作成するとよいでしょう。
WBSの作り方は4ステップ
WBSの作り方は、以下の4ステップを意識してみてください。
- 必要な作業の洗い出し
- 構造化に向けて粒度・順序を整理する
- 作業の構造化して期日を設定する
- 作業ごとに担当者を設定する
ここでは、ステップごとに注意すべき点やアイデアについて解説していきます。
ステップ1.必要な作業を洗い出す
最初にプロジェクト完遂に必要な作業を洗い出しましょう。プロジェクトの目的や成果基準などから逆算し、漏れや重複に注意しながらタスクを書き出します。
中長期プロジェクトの場合、作業フェーズごとに必要なタスクを考慮するとよいでしょう。たとえばWebサイト制作の場合、主要なフェーズは「企画 ・設計・ デザイン制作・ 実装・コーディング・ リリース」に分けられます。
一旦、主要フェーズごとに作業を洗い出し、さらに細分化することによって、抜けや漏れの予防が可能です。
その際、細かいタスクは構造に含めない点に注意しましょう。細かくし過ぎると、管理が煩雑化する可能性が高まります。プロジェクトの管理工数を考えて、適度なサイズにタスクを切り出すように意識してみてください。
ステップ2.構造化に向けて粒度・順序を整理する
必要な作業を洗い出したら、事象や物事などの全体を定義したうえで、構成要素とそれら構成要素間の関係を整理する「構造化」に向けて粒度・順序を整理します。
作業の粒度とは「タスクをどれくらい要素分解したか」を指します。
粒度にばらつきがあると、構造化した場合にいびつなツリー構造になってしまいます。そうなるとプロジェクト開始後の進捗管理が煩雑になる恐れがあるため、工数や作業時間の規模が近しいものを同じ階層にまとめます。
また優先順位の高いタスクに遅延が発生した場合、関連タスクだけではなく、プロジェクト全体がストップする可能性も考えられるでしょう。洗い出したタスクをそのまま構造化するのではなく、整理して並べていくことがポイントです。
ステップ3.作業を構造化して期日を設定する
作業を構造化し、最終期日を設定します。構造化する際は「タスクごとの関係性が間違っていないか」や「同じ階層の業務負担や工数、必要な時間が乖離していないか」を確認しましょう。
構造化が終わったら、タスクごとに期日を設定します。実際にプロジェクトが稼働すると、計画時点では気がつかなかったタスクが見つかったり、トラブルが発生したりすることがよくあります。そのためこれらのような事態に備えて、余裕を持って期日を設定しましょう。
ステップ4.作業ごとに担当者を設定する
最後に、作業ごとに担当者を設定します。このときに洗い出したタスクすべてに担当者を設定することが大切です。
細かいタスクになると、担当者を設定しない・複数人が担当者に設定されている場合があります。しかし、そうなると責任の所在があいまいになるため注意が必要です。
万が一、ミスやトラブルが発生した場合でも滞りなくプロジェクトを進行させるためにも、細かいタスクにまで担当者を割り振ることを忘れないようにしましょう。
WBSの精度を高める3つのポイント
WBSの精度を高めるポイントには、以下の3つが挙げられます。
- マインドマップの活用
- ガントチャートの併用
- テンプレートの利用
WBSはあくまでも、作業を洗い出して抜け漏れを予防する手法です。そのため、単一で使うと管理が行き届かなくなるおそれも考えられるでしょう。ここではWBSの精度を高めるためのポイントを解説します。
1.マインドマップの活用
プロジェクト規模が大きくなるほど、スケジュールは複雑になります。そのため、マインドマップを活用すると、複雑なスケジュールでも整理しやすいでしょう。
マインドマップは紙とペンがあれば誰でも作成可能です。Webツールを活用してマインドマップを作成するのもおすすめです。思い浮かんだ課題やアイデアなどは、一旦マインドマップにすべて書き出し、思考を整理しましょう。
マインドマップを活用してWBSを作成する際、課題やアイデア、思考などを中心トピックから分岐させて書き出せます。
2.ガントチャートの併用
WBS作成時にガントチャートを併用すると、プロジェクト全体の進捗状況を簡単に把握できます。
ガントチャートはプロジェクトの進行状況や、各タスクの進捗度合いが分かりやすく視覚化されています。そのため、次にこなすべきタスク・納期も示されており、メンバー全員が進行状況を把握するのに最適です。
WBSで洗い出して細分化したタスクに、ガントチャートの時間軸を加えることによって、進行管理を簡単に行えます。
3.テンプレートの利用
企業では複数のプロジェクトが並行して進められることが一般的です。そのため、プロジェクトに着手する度に、WBSを作っていくのは効率的ではありません。
よって、WBSを最適化して運用できるよう、WBSをテンプレート化して利用することがおすすめです。ベースとなるテンプレートをあらかじめ作成し、プロジェクトごとにカスタマイズして使えるようにしておけば、手間を大きく減らせるでしょう。
ウェブ上にはWBSのテンプレートがたくさんあるため、活用してみてください。
まとめ
WBSはプロジェクト達成に欠かせない、タスクを細分化して組み立てる手法です。WBSを作成することにより、タスクの抜け漏れを予防し、精度の高いスケジュールを立てられるでしょう。
ほかにも、ソースの最適化や作業の見える化が図れるなど、多くのメリットがあります。Excelやスプレッドシートでも簡単に作れる上に、ウェブ上にはさまざまなテンプレートが提供されています。プロジェクト開始前には、ぜひWBSを作成してみてはいかがでしょうか。